戸令20 造帳籍条

現代語訳「養老令」全三十編:第八編 戸令 全45条

○20 造帳籍条(帳籍を造るの条)


《原文》
凡戸口。当造帳籍之次。計年。将入丁老疾。応徴免課役。及給侍者。皆国司親【貌】形状。以為定簿。一定以後。不須更【貌】。若疑有【姦】欺者。亦随事【貌】定。以附帳藉。


《意訳》
戸口の帳籍を作る際、同時に年齢を計算すること。正丁(21歳〜60歳)・老丁(61歳〜65歳)・疾(=障害者)に該当することとなって、課役を徴収あるいは減免する場合、及び、侍〔じ〕を給付すべき場合には、皆、国司が自ら容貌を審査してから帳籍〔ちょうじゃく〕に確定すること。一度年頃を確定して以後は、あらためて審査を行ってはならない。(ただし)もし詐欺の疑いがあればまた、随時容貌を見定めてから帳籍に附けること。


本
この条は、帳籍の作成にあたっての不正防止実検について定めたものです。

侍とは、侍丁〔じちょう/じてい〕のことで、給侍条に定められた、高齢者および重度障害者に充てる介護者をいいます。

【貌】とは容貌を「実際に見る(実検する)」ことです。年齢よりも若く見えたり老けて見えたりする人がいますよね。正丁の年頃(21歳〜60歳)になったのに「まだ10代です」、まだ50代なのに「老丁になりました」などと欺いて、課役負担を軽くしようとする不正行為を防ぐのが目的です。
詐欺の疑いがあるときを除き、原則として、一度確定したら二度と審査しません。幼く見えたり老け顔の人をその都度、見た目で判断して年齢を修正するわけにはいかない、ということだと思います。

なお、課役徴収の対象となる課口〔かく〕は、中男〔ちゅうなん〕(17歳〜20歳)以上ですが、この条文では中男が抜けていますね。中男については令義解等の注釈書では言及されており、もちろんこの条文の対象となっているようです。
同じくここで出てくる「簿」については帳籍のことと注釈されています。帳籍とは計帳と戸籍のことをいいます。

   ***

昨今は表示可能な文字が増え、また機種依存の問題もかなり解消された感がありますね。
原文中の【貌】の字は、本来は【白+八】で【㒵〔ぼう〕】という字です。環境によっては表示されない可能性があるので【貌】に置き換えています。〔み〕る、と訓読します。【見】の字に似てもいますね。
【姦】も同様で、本来は【姧】の字です(国史大系の用字では【姦】みたいですが)。
よほどこだわりのフォントをご利用でない限り、【㒵】も【姧】も、たいていの方にはちゃんと表示されているのではないでしょうか。どのくらい配慮すべきなのか、わからない状態です。


※個人的なメモ
【貌】は【㒵】。「㒵案」を作り「㒵定」する。
【姦】は【姧】。



posted 2010-10-03 17:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | カテゴリ:08:養老:戸令 現代語訳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

当ブログの底本および参考資料・位置づけ等

当ブログの養老律令原文の底本、および、主な参考資料は以下の通りです。

●日本思想体系「律令」第8刷 1982年
(第1刷は1976年)
 当ブログの原漢文は、この日本思想体系のものとなっています。

●新訂増補 国史大系「令義解」普及版第16刷 1994年
(普及版第1刷は1968年 第1版第1刷は1939年)

明治大学古代学研究所『令集解』データベース
「石川介〔いしかわ かい〕校訂本の画像データ」石川介校訂本は国史大系「令集解」の底本となっているものだそうですね(?)。わたしは家に「令集解」を持っておらず確かではないのですが。

また、日本古代史料本文データで、養老律と養老令、および延喜式の原漢文CSVファイルが公開されています。こちらは国史大系のいずれかを元に作成されたようで、日本思想体系のものとは用字や句点の位置等が若干異なるようです。

その他参考文献については、親サイト「官制大観」の参考文献リストをご覧ください。

なお、当ブログにおける、自サイト以外のWebサイト等のご紹介は、その内容等に保証を行うものではありません。

当ブログは、ドメインこそ異なれ、Webサイト「官制大観」のコンテンツの一部として公開しているものです。現代語訳の配布・転載条件等は、官制大観に表示している「現代語訳「養老令」について(凡例、配布・転載条件 他)」と同様です。公正な慣行に基づき自由にご利用ください(^_^)

タグ:参考資料
posted 2010-10-02 02:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | カテゴリ:お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戸令19 造戸籍条

現代語訳「養老令」全三十編:第八編 戸令 全45条

○19 造戸籍条(戸籍を造るの条)


《原文》
凡戸籍。六年一造。起十一月上旬。依式勘造。里別為巻。惣写三通。其縫皆注其国其郡其里其年籍。五月卅日内訖。二通申送太政官。一通留国。{其雑戸陵戸籍。則更写一通。各送本司。}所須紙筆等調度。皆出当戸。国司勘量所須多少。臨時斟酌。不得侵損百姓。其籍至官。並即先納後勘。若有増減隠没不同。随状下推。国承錯失。即於省藉。具注事由。国亦注帳藉。


《意訳》
戸籍は6年に1度作る。11月上旬より着手し、式に則って判断し作成すること。里ごとに1巻とすること。全部で3通となるよう写すこと。縫い目に皆、国名・郡名・里名・何年の籍と記すこと。5月30日までに終えること。2通は太政官に申し送ること。1通は国に留めること。{雑戸〔ざっこ〕・陵戸〔りょうこ〕の籍は、さらに1通写して、それぞれの属す官司に送ること}。必要な紙・筆等の調度は皆、当該の戸に出させること。国司はその時々に応じて斟酌して必要量を判断し、百姓〔ひゃくせい〕(=人民)を侵損してはならない。籍が太政官に到着したならば、いずれもまずすぐに受納して、その後に監査せよ。もし年齢の増減や隠(=戸籍に附けられないよう隠れること)や没(=死亡・行方不明)に矛盾するところがあれば、状況に応じて推問すること。国が誤りを認めたならば、すぐに省籍(=民部省および中務省が管理している籍)に、つぶさに事の理由を注記すること。国もまた帳籍に注記すること。


本
この条は、戸籍の作成に関わる手続きを定めたものです。

戸籍は6年に1度作成、したがってこれを元に行われる班田も6年に1度となります。
その国の国司が作成したものを、太政官は2通受け取って、1通を中務省へ、1通を民部省へ回します。

「雑戸」とは、主に軍備関連の役所に属す手工業技術者のうち最下層にある人たちです。良身分ながら蔑視されており、実情は良賎の中間に位置する身分です。
「陵戸」とは、天皇・皇族の陵墓の墓守で、元は賎身分ではありませんでしたが、養老令以後、賎身分に編制されて諸陵司に属しました。
雑戸〔ざっこ〕と陵戸〔りょうこ〕には「雑戸籍」「陵戸籍」というのが別にあり、雑戸籍はその雑戸が属す役所、陵戸籍は諸陵司が管理しています。

戸籍は、課役逃れの嘘がないか監査が行われます。古記によると、民部省がチェックして、誤りがあればその旨を中務省へも知らせたようです。

   ***

律令の条文には【勘〔かんが〕える】の語が何度も出てきます。しかし単純に「考える」の字を充てると「なんか違う」との印象を受けてしまうことが多い、わたしにとっては訳しにくい語でもあります。これまでは概ね「検討」というふうに訳してきました。けどそれもなんか違う。
この条文の中には3回も出ていますね。式の規定に依って戸籍を「勘え造る」、用いる文房具の多少を「勘え量る」、書類を先納して後に不備がないか「勘える」。
現代でも使われている例としては「数を勘定」「諸々の情勢を勘案」「様々な事情を勘考」「諸本を校勘」とか「勘がいい」「勘所を押さえ」「勘繰〔かんぐ〕る」ですかね。
【勘】の語は、思考・思案・考察といったような詳しくじっくり「かんがえる」ことではなく、続く具体的な実行行為へ向けて、広く見渡すようなマクロな視点からの照合や検討を加えつつ、迅速な判断を行うことのように感じられます。「これで大丈夫かな、ん〜と、よしOK、これでいこう!」と決めるところまで。一方、【考】の語は、何らかの実行行為への繋がりにはあまり関わらず、決定が出なくてもいいように感じられるのですが、みなさまの感覚ではいかがでしょうか。

posted 2010-10-01 17:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | カテゴリ:08:養老:戸令 現代語訳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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